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f0057955_1164878.jpg佐々木 譲、ハルキ文庫
北海道警察シリーズ第四弾が文庫化されていた。

第三巻で、小島が発砲の上で逮捕したストーカー男が、病院から脱走する。サミット警戒で全国の県警から警官が集結する札幌で、しかし男は姿をくらましてしまう。
一年が過ぎて、この男が神奈川県で強盗未遂をしでかしたことが判明、同時期にストーカー被害者には脅迫メールが届き始めた。

並行して複数の事件が、そしてそれらを追うお馴染みの警官たち、小島、津久井、新宮、佐伯の活躍が、スリリングに、地道に、唐突に、或いは苦みを伴って語られ、結末に向かって収斂していく。流石の、圧倒的な充実の一冊。佐々木譲さん、有難う。

ねじ巻き娘を苦労しながら読み進めていて、先日の出張の終わりに何とか下巻の大団円間際まで。よおし、この札幌行きでまずはこれを読み終えようと、さあ空港に向かうバスの中で文庫本を開いたら、上巻を持って来てしまっていた、この間抜けめ。

舌打ちしながら、巡査の休日を読み始めたのだが、空港バスの中、空港の待合い、飛行機の中、そしてJRで新札幌に向かう途中で夢中で読了した。実に幸せな移動時間であった事だ。
f0057955_20414022.jpg上橋菜穂子 著、偕成社。守り人短編集、四編収録である。

守り人シリーズの本編を10巻まで読み終えて、その興奮が冷めやらぬうちに、買い込んであった別な文庫本を持って出張に行ったのが失敗だった。

うってかわって軽妙洒脱、なかなか面白いミステリもので、面白いんだ、面白いんだと自分に言い聞かせて読み進めていたのだが、イカン!、遺憾!バルサとチャグムの濃厚な物語から、私の波長が戻っていないのだ。

読みたい本があるのを、私の潜在意識が訴えている。
仕方が無い、ここは自分に正直にならねばと、京都駅に着いたら大型書店を探した。京都駅前のヨドバシカメラの6階に大垣書店を見つけて 児童書の棚を探せば、あったあった。やはり私はこの本を読む運命であったのだ。出張だと言うのにこんな重たい本を買い込んで、嬉々としてビジネスホテルで読みふける。

ジグロが生きていた頃の、まだ小さいバルサにタンダが絡む物語などが四編。嬉しいなあ。
チャグム以前の物語が、もう少し読みたいなぁ。

そして、チャグムが壮年王となった物語も良かろうなぁ。しかし、一般に女性作者は、利発で健気な若者までは好きでも、男性ホルモンに満ちた男や、脂の浮いた実年オヤジは書くのが嫌だろうな。
読み終えて満足した。ようやく、別な本を読めるようになった。筈である。
f0057955_1922857.jpg上橋菜穂子 著、偕成社

新潮文庫で7刊まで出ていて、現時点で文庫化されていない最後の物語「天と地の守り人」は三部作である。

これは当然、続きを読まねばなるまい。
偕成社から軽装版で出ている三冊を見つけて購入した。

実に面白かった。
境遇と経験が鍛えた青年皇子チャグムが、果敢に運命に挑む。
これを守り助けるバルサ。各々の立場で、役割を悟って機敏に働くシュガ、トロガイ。そしてタンダの危機。

「父上、おさらば!」チャグムの声が、まだ耳に残っているかのようだ。
f0057955_8442052.jpg上橋菜穂子 著、新潮文庫

圧倒的なオリジナリティ、第一作目にして大規模で綿密に構築された世界観、他に類を見ない物語だ。これは大層面白い。

所謂ファンタジーもので、児童文学として書かれたのだが、文庫版では大人向けに「漢字を増やした」のみ手を入れたそうな。

短槍の名手バルサは、ワケありの過去を持つ女用心棒。
彼女が救い、その後に庇護を依頼された帝の第二皇子には、精霊の卵が産み付けられていた。この卵から雲を吐く精霊を孵化させねば、この地は旱魃に襲われる。バルサは仲間の呪術師たちとこの皇子を守るべく、伝説の存在たる精霊の天敵や帝の放った狩人との戦いに身を投じる。

しゃばけシリーズの、読み終わった文庫本の巻末紹介欄で目にとまり、面白そうだとネットで取り寄せてみた。その後、しゃばけの畠中さんもこの著者のファンである事を知った。
守り人シリーズ全10巻、あと9巻が私が読むのを待っている。鉱脈を探り当てた気分だ。

4日の午後から札幌にやってきた。
ここ二日間は吹雪で大荒れだったようだが、着いてみれば静かな、しかし冬に逆戻りの札幌である。
f0057955_1358149.jpg原題はEifelheim マイクル・フリン著、島田洋一 訳、創元SF文庫

原題のアイフェルハイムはドイツの小さな村の名前。
昔は別の名前で呼ばれていたその村に、異星人の船が不時着した。

時は14世紀、キリスト教神学と世俗政治の混沌の中で、知識人であるデートリッヒ神父は、彼ら異星人(昆虫に近い姿で、バッタの友と呼ばれる)を救うべく、周囲の村民に領主に働きかける。

一方、現代のフィラデルフィアに住む統計歴史学者のトムは、中世にペストに襲われ、その後は復興せずに忽然と消えたドイツの小村に疑問を持ち、当時の書物から謎を解こうと奮闘していた。同棲する宇宙物理学者のシャロンは、新しい宇宙論のヒントを掴んで熱狂していたが、トムの発掘した古文書の中に、彼女らが最近になって新理論から導いたばかりの回路図を発見して愕然とする。

大作であり、中世の事象の描写がとんでもなく綿密で難解である。しかし、投げ出せずにジワリジワリと読み進めていくと、薄紙を剥ぐように結末に至る小説だ。中世の描写や宗教用語のみならず、ラテン語、ドイツ語、ロシア語などが入り乱れる(主人公の一人、トムがやたらと外国語を連発する)ので、これは訳者が大変だったのではないだろうか。

異星人は宇宙船を修理して故郷に戻れるのか。小村に襲いかかる黒死病、そして異星人達を襲う危機に対して、デートリッヒ神父と異星人達は必死の努力を続けるのだが、、、
静謐な最終章が物語を引き締めている。難解ながら傑作と言って良かろう。
f0057955_1428591.jpgまだあった忘れ物。
ワシントン封印工作 佐々木譲 文春文庫

日米が戦争に突入せんとする頃、日本の実業家の庶子故に米国に渡り医学を学ぶ幹夫は、母からの学費が途絶えて進退窮っていた。帰国を迫られ、大使館での雑用係として働き始める幹夫。

同じその頃、日本人を父に持ち米国人の母と共に帰国して就職先を探すミミは、政府高官から日本大使館にタイピストとしての仕事を与えられた。大使館内部に送り込まれたスパイとして。

両国が戦争に傾斜する中での青春群像。政府高官に愛されるミミは、やがて幹夫に心を開いて行く。
先日読み終えた大戦三部作の、一方その頃ワシントンでは、の一作。やはり傑作であった。

そのほかのメモ。
「プロ」が教える成功法則 新規事業がうまくいかない理由 坂本圭一 東洋経済新聞社
同僚が送ってくれた本で、字が大きく空白が多いのですぐ読めた。仰るところは御尤もな一冊。

アリスへの決別 ハヤカワ文庫、神は沈黙せず 角川文庫 共に 山本弘
MM9やアイの物語で味を占めて、作者の作品を遡って読んでみた。大層博学でオタク的、アイデアストーリーの小品を書くかと思えば、とんでもなくスケールの大きなものも書くのだな、この人。
f0057955_9535374.jpg年末年始に読んだ本を、読んだ順にメモしておく。

天冥王の標Ⅲ 小川一水 ハヤカワ文庫
シリーズ第三弾、前作より少し時間の進んだ太陽系内が舞台。体に充電して、酸素のない宇宙環境でも活動できるように肉体を改造した者たち「アンチ・オックス」、中でも海賊狩りを任務として彼ら独特の強襲砲艦を操るサー・アダムス・アウレーリアとその一統が活躍する。

はるか未来の植民星から第一作が始まり、第二作では過去の地球での災厄を語り、今作では散りばめられた謎が少しずつ正体を浮かび上がらせてくる。電気仕掛けの羊を送りこんだ眼に見えない存在と、これに対抗する勢力と、最後にはこの辺りの存在と人類が三つ巴になる予感。これからも楽しみにしておこう。

f0057955_9533010.jpg仮借なき明日 佐々木譲 集英社文庫
直木賞受賞で、過去の作品が改装・文庫化されていて有難い限り。

海外進出した工場の現地での不正を暴く企業戦士の物語。
彼は、都内のサラリーマンとしての本業の傍らで、ゲームソフトの副業収入で都心のマンションにクールな城を築く、知的でタフで故に企業の枠に収まりきれない男だ。

彼の能力を買う上司から特命を受け、外地に飛んだ彼を妨害と罠が待ち受ける。既得権を守ろうとする組織との攻防、彼がとる行動は、そして彼の運命は、、、いつもの通り、ページをめくる手が止まらなくなる、佐々木譲の快作である。

f0057955_1413454.jpg疾駆する夢 佐々木譲 小学館文庫

復員して焦土から身を起こし、いつか自動車を作る夢を追いながら、多門大作は「自動車修理・整備全般」の看板を掲げて本牧に多門自動車を創業した。

戦時の廃品からリヤカーを作り、自動二輪を作り、オート三輪の製造に乗り出した彼は、才覚を発揮して周囲の工場を吸収合併し、また仲間を募りながら、数多くの困難を乗り越え、多門自動車を育て上げていく。

文庫本の上巻下巻が共に700ページある長編だが、その長さを感じさせない。引退した彼を、その娘が語らせながら、時代ごとにエピソードが重ねられていく趣向である。堪能いたしました。

f0057955_9551076.jpgハーモニー 伊藤計劃 ハヤカワ文庫

近未来、人類はナノテク装置を体内に取り入れ病気を根絶した理想郷を築いていた。この装置はまたサーバーのIDとして機能し、構成員が個人情報を公表し他者を無制限に信頼する約束の上で成り立った高度な社会システムが、世界を覆っていた。

その世界に反逆する少女たちがいた。
彼女たちは死を選ぶが、主人公は生き残った。
時は流れ、彼女は図らずもシステムを維持する監察官の職務の中にいた。そして、ある事件が死んだ旧友の影に重なるとき、思いもしない事実が浮かび上がる。

SF近未来ギミック満載でよく描き込まれた、早世した著者の遺作である。人間とは、人の幸福とは何かを問いかける、切れば血の出るような物語だ。惜しい方を亡くしたものだと思う。
f0057955_2155157.jpg原題は、Singularity's Ling
ポール・マルコ著、金子 浩 訳、ハヤカワ文庫

超AIに接続した人類が融合した共同体。彼らは全員の肉体的な死とともに<進化>して、次なる次元に進んだものとされていた。
彼らが去った数十年後、荒廃した地球では、遺伝子操作で強化されたフェロモン交感と共感覚で結ばれた五人にして一つの人格<アポロ>が、外宇宙探査船の船長としての訓練に挑んでいた。

訓練中の事故の中に妨害と陰謀を感じた彼らは、否応なく共同体の謎に身を投じる事になる。地球を軌道エレベーターで結び、それらを大気圏外で結ぶリング。現在は沈黙するその管理者たる共同体AIに、活路を求めてアクセスした彼らを待つ運命は、そしてそもそも彼らが生み出された存在理由とは、

壮大・奇想な設定と、後半の謎解きのスピードアップに、ページをめくる手が止まらない。
楽しませていただきました。
f0057955_1015945.jpg佐々木 譲 著、集英社文庫
直木賞作家 佐々木譲の作品が、最近になって各社から文庫で復刊?改訂増刷?されていて、嬉しい限りだ。

この作品も1990年のものだそうだが、古さは感じない。いや、時代背景が当時であると言うだけで、物語の面白さは変わらないと言うべきか。

都内でふとしたことから知り合った男女。共に恋に落ちるのだが、しかし女が留学に旅立つ日、空港に男は姿を見せなかった。

10数年が過ぎて、運命に翻弄された男が組織から追われ身を隠した那覇のホテルには、その女がいた。
ホテル経営者の息子と結婚し、若くしてその夫を事故で亡くし未亡人となった専務として。
女は男の窮地を知り、援助の手をさし向ける。嵐の那覇、男に追手が迫る。男の逃亡はなるのか。

結末に向けてストーリーは加速していく。作者が演出した加速感は、まさに指数関数的だ。女が追手を男と見誤る数行に、男の引き摺ってきた過去が鮮烈に凝縮されている。堪能いたしました。
f0057955_2223370.jpg佐々木譲 著、角川文庫

新宿歌舞伎町の酒場の雇われマスター、郷田。
十数年を数えたこの店を畳むその日に、彼は中国系ベトナム流民のメイリンを匿う羽目になった。

ヤクザに、そして警察からも追われるワケありの彼女。土曜の夜の喧騒が深まるに連れて、その包囲網は狭まってくる。

強制送還に繋がる警察への投降を選ばず、郷田は信頼のおける店の客らと共に、彼女を脱出させるべく動き出すのだが、、、

悲運の中でも健気に人生を切り開いて生きる少女の気概、佐々木譲の小説の主人公達は、皆クレバーで凛々しく逞しい。
一昨日の東京駅の本屋で見つけて買ってきて、今日の横浜行き帰りで読了した。満足の一冊。