カテゴリ:趣味の読書( 170 )

f0057955_20562310.jpg山本 弘 著、創元SF文庫

怪獣小説と書かれてある。書店で一度 手に取ったのだが、購入は躊躇した。しかし、その後のネット書店で見るうちに「読んでみようか」と思い直して購入したのだった。

盆休みの帰路、夢中で読んで、成田空港からの電車の中で読み終えた。これは面白かった。

気象庁特異生物対策部、略称「気特対」は、怪獣の素姓や進路予測、怪獣に対処する自衛隊への情報提供を任務とする公務員組織である。
彼らは、光線銃などの武器を持たず、特別装備のスーパーカーや合体するジェット機にも乗らず、ましてやウ〇ト〇マ〇の助けも借りずに、日常的に現実的に怪獣に立ち向かうのであった。

怪獣マニア向けの楽屋落ち小説かと思いきや、ちゃんとしたSFであり、娯楽読物としても完成度が高い。MMとはモンスター・マグニチュードなる尺度であって、怪獣の大きさ≒破壊力をしめす単位である。この連作集は、最後に表題のMM9:超巨大黙示録的大怪獣の出現に至る。

気特対が、懐かしき科学特捜隊「科特隊」のパロディである事は、お分かりの事と思う。
この作品には、映画やテレビの怪獣ものへの限りなき愛が注がれている。素晴らしい!!!
f0057955_21395522.jpg遠藤秀紀著、光文社新書
氏の元に持ち込まれた狸の死体、これは赤坂御所で宮様が発見されたものである。この遺体は私たちに何を教えてくれるのだろうか、、、
この本はここから始まる。

「骨の大きな役割は筋肉に付着面を与えて、動物の運動を実現する事だ。」なんて言うフレーズが好きだなぁ。

哺乳類が直立するとはどういう事か。
二足歩行のための大きな踵、そして土踏まずの開発、大臀筋を中心とした筋肉群の設計変更、足の柔軟な動きを確保しつつ落ち込む内臓を受け支える骨盤、直立したことで自由度を増した手には拇指対向性の指を開発し、そして右脳・左脳に機能分化した巨大な脳を容れる頭蓋を載せた人体の進化。

しかし残念ながら、一方で生じたデメリットの数々。
脳には大量に必要とされる血液を押し上げ供給し、足から血液を汲み上げ回収するために負担を強いられた循環系、基本的な構造故に、また現代の生活習慣がもたらす椎間板への負荷、むくみ、冷え症、ヘルニア、肩こり、全ては進化の行き着く果ての人体設計図の袋小路であった。
f0057955_2141774.jpg
女性の月経に関する一考察は、言われてみれば「なるほどね」の明快さ。
如何にも唐突に進んできた感のある生物の進化であっても、人間社会の変革の速度は比べ物にならない、生物としての人間がこれに適応できるわけもないのであった。

ネットで取り寄せたのに、おまけでプラスチック製の栞が本に挟まれていた。
お得な気分である。
f0057955_1043161.jpg遠藤秀紀 著、光文社新書
現代の地球に溢れるニワトリ、その起源は東南アジア原産の野鳥セキショクヤケイであった。

卵や鶏肉の生産のみならず、闘鶏としての戦いを、それによるギャンブルの楽しみを、また時を告げる鳴き声を、或いはその美しさを求めて、人類はこの鳥に育種の情熱(氏はこれを「心のエネルギー」と呼ぶ)を注いできた。
ニワトリは人類と共に八千年を生きてきたパートナーなのである。

生物学系の本と思いきや、いや確かに生物学的記述は大いに登場するのだが、氏の文体は思い入れたっぷりで、時に饒舌で、精緻な世界の鶏種のイラストを含めて282ページの充実度にもかかわらず、まるで娯楽読物のように実に楽しく読めてしまった。

最後の人畜共通感染症に関する提言は、まさしくごもっともである。
はじめての「演劇界」とか「ニワトリ愛…」とか
f0057955_10334753.jpg
モーレツ!イタリア家族、それではさっそくBuonappetito! ワイドKCKiss 講談社
イタリア家族 風林火山 ぶんか社コミックス ヤマザキマリ著

テルマエ・ロマエでブレイクして、マンガ大賞と手塚治虫文化賞短編賞に輝いた氏の自伝的短編漫画集。結婚した夫の実家で繰り広げられる日々を勢いよく描きまくる。イタリア大家族の文化と習慣の違いに驚き、笑い、涙する、素晴らしいエッセイ・マンガである。

それでは・・・」は、何と自伝的料理マンガである。こんなジャンル初めてだな。
ブラジル料理のムケッカとやらが食べてみたい。

それにしても、多彩な人生を送っている方もいるものだ。学者である旦那さんの転勤で、イタリアからポルトガル、現在はシカゴに住んでおられるらしい。
f0057955_19391640.jpgヤマザキマリ著、BEAM COMIX。マンガ大賞2010受賞作。
これは非常に優れて斬新なSF文明論ギャグ漫画である。
なお題名は「ローマのお風呂」の意味らしい。

古代ローマの建築技師ルシウスは、風呂を通じて現代の日本にタイムスリップする能力を授かった。

彼がローマの浴場で溺れれば、現れたのは日本の銭湯である。
ここで彼は、富士山のペンキ絵と良く冷えたフルーツ牛乳に感激してこのアイデアをローマに持ち帰る。
彼が火山性の湧水に浸かり足を取られ、水面に出れば、そこは日本の露天風呂である。ここでは、温泉卵と燗酒に出会いこれを彼の時代に生かす。
彼が老師と共に浴場に浸かれば、日本の家庭風呂桶にワープする。
ここでは小規模の風呂とシャワー、そしてシャンプーハットのアイデアを持ち帰るのだった。

世界文明の頂点たるべきローマ、しかし風呂にかけては遥かに進んだ文明を謳歌する「平たい顔族」(日本人のこと)に驚き、しかし謙虚に学ぶルシウス。彼の技量はいつしかローマ皇帝の目にとまり、、、続きは是非ともマンガで見てね。

凄いマンガだ。この境地にまで達した日本の漫画文化を称えたい。
作者の経歴だが、これまた凄い。偶然にもヤマザキマリ氏はエキサイトブロガーであった。

マンガ大賞ちなみに5位は、先日読んで驚いた佳作『娚の一生』西炯子である。
f0057955_18455648.jpgフィリップ・リーブ著、安野 玲訳、創元SF文庫。
移動都市シリーズの第3弾である。

突拍子もない設定なのだが、相変わらず読み始めるとグイグイと引き込まれるのは、作者のストーリーテリングの妙。出張の二日間の飛行機と、空港からのパスの中で読み終えた。

トムとへスターを乗せた大冒険の末に死の大陸に辿り着いたかつての氷上都市アンカレジは、今や名もない湖のほとりに居場所を定め、都市外の水力発電に支えられた静かな16年を過ごしていた。

二人には娘が、両親の冒険譚に憧れ平安な日常を憂う娘がいた。そこに現れたのは、海底の根城から潜水艦で忍び込んでは略奪を繰り返すロストボーイ達。彼らはアンカレジに伝わる古代の写本を探しに来たのだ。娘は彼らとともにこの都市を飛び出すことを夢見るのだが、、、

第1巻、第2巻の登場人物が入り乱れて、またもや天然色の万華鏡のような物語が織り上げられていく。再び離れ離れになった二人、へスターの育ての親の復活、古代人が残した今も軌道を周回する最終兵器の存在と、この制御コードをメモリに残してどうやら死にきれなかったらしい強敵。さあ、最終話に向けていよいよ期待は高まるのだ。
f0057955_19342412.jpg副題は、神秘家 水木しげる伝 勿論 水木しげる著、角川文庫
帯には「描いて、笑って、88年。祝 米寿」日本漫画界の驚異、水木しげる自伝漫画の決定版!とある。

3年前に出版された単行本を文庫化したものだそうで、大のファンの私としては単行本で買わせていただくべきであったかもしれない。

第一部 のんのん婆と出会う少年時代から、召集令状が届くまで。
第二部 鳥取連隊からラバウル、左手を失い、地元の民と親しみ、復員して東京で漫画家になるまで。
第三部 結婚して貧しい漫画家生活、やがて児童まんが賞の受賞とともに訪れた超多忙な生活、ラバウルへの帰還、現世での怪奇との出会いと父親の死まで。
第四部 そして現世の神秘との出会いと今日まで。最後は煙に巻かれたようで、これもまたオモチロイ。

うーむ、素晴らしい方である。何かこう、現世から少し外れた大きさを感じる方である。時代を超えて、私の年代にも息子の年代にも、空間を超えてフランス人にも(最優秀漫画賞)支持されている方である。この方の感性を日本の宝として、大切に受け継がねばならぬのである。
f0057955_21584074.jpg緑ゆうこ著、紀伊国屋書店。

結婚してイギリス郊外に住み、土と植物に親しみ、ガーデニングに精を出す奥様の植物に対する考察集である。

私たち人間は、植物の特性を利用して、植物から有用な物質を抽出精製しながら文明を築いてきた。
お砂糖しかり、煙草しかり、お茶だ、麻薬だ、コットンも、ゴムも、、、

人間は植物を利用してきた。人間が利用してきた。
いやいや、本当に人間が主人公だったのだろうか? 実は人間は植物の増殖戦略に乗せられて、良かれと思いながらせっせと植物に奉仕してきただけじゃあなかったのだろうか?

植物を利用して、それで人間は幸せになったの? むしろ、ますます忙しくなっているだけじゃあないのかしらん。
バイオマスだって、人間が無理に利用しないほうがいいんじゃない。植物を使いこなしてエコなんて幻想。人間が行動を抑制して、消費を節約したほうがエコ。むしろ人間がいないほうがもっとエコかも。といった本である。

人間は、所詮は植物からの恩恵を被るだけの存在に過ぎない。人類の歴史の光明も暗黒も、全ては植物の存在が鍵であったことを思い知らされる一冊である。
f0057955_19321339.jpg邦題の副題は「がん細胞はなぜ消えたのか」
原題は「YOUR LIFE IN YOUR HANDS」
そのまま訳せば、両手の中のあなたの命。
原題の副題は「Understanding,Preventing and Overcoming Breast Canser」
そのまま訳せば、乳がんの理解、防止と克服。

佐藤章夫 訳、径書房。
2008年10月の刊行だが、本国では2000年とのこと。

酪農業界にいながら、この本を知らなかったのは不明であった。
獣医師の豆作先生のブログに、同じく獣医師のそりゃないよ先生がコメントされていたので、興味を惹かれ、早速ネットで取り寄せた。

英国の女性科学者ジェイン・プラント教授(本業は地球化学)による、自らの経験に基づく戦いと啓蒙の書である。乳がんの再発を繰り返す彼女が辿り着いた結論、乳がんの原因は「インスリン様成長因子:IGF-1」を高濃度に含む牛乳と乳製品であり、IGF-1は乳がんのプロモーターなのだという。(私の読み違いがあれば、御免なさい)
前半は、著者自らの命懸けの探求劇であるから読み進むのだが、後半は健康食の解説になってしまっていささか冗長な感がある。しかし、世によくある所謂「トンデモ本」ではない。

牛乳はそもそも子牛には最適だが、人間の成人が摂取すべき食品ではない。などという表現には少々違和感。食物とは、多かれ少なかれ何らかの害毒があるものである。しかし、乳量追求型の育種改良を続けた結果、現在の乳牛は極めて巨大な産乳成績を誇っているのは事実であり、昔の牛に比べれば内分泌系が亢進しているであろうことは想像に難くない。このIGF-1の分泌を促進すると筆者が憂いている成長ホルモンの乳牛への投与は、米国では許されているが、EUや我が国では認められていない。

本当に現在の牛乳には、IGF-1が移行しているのか。そもそもこの物質は、牛乳の殺菌の過程では壊れないのか。70個のアミノ酸からなる分子量8000弱の蛋白質は、消化管内で分解されず、しかも消化管を通過して代謝もされず血流に移行するのだろうか。高IGF-1濃度の牛乳を飲んだ人の血液中には、本当にIGF-1が高く検出されるのだろうか。

私は子供の頃から牛乳をよく飲んだし、いまでも興がのれば1リットルくらい飲んでしまう。
身長190センチは少々大きくなり過ぎたけれど、多分に牛乳による栄養補給が、要因としては先祖から受け継いだ遺伝形質の次に大きかったろう。
これでも生物系会社員の端くれだ。もし実験をするのなら、喜んで我が身をもってご協力しますがね。(注 無理やりIGF-1を添加した牛乳の試験は、イヤです)
f0057955_12272564.jpg佐々木 譲、新潮文庫

大戦秘話三部作の第一編。時は第二次世界大戦のさ中、独逸と結んだことで英米との緊張感を増す日本から、日本海軍が誇る最新鋭の零式艦上戦闘機2機がベルリンに向けて飛び立つ。

鈍重なメッサーシュミットでは英国本土攻撃が達成できぬ、長い航続距離と運動性能に優れた戦闘機を同盟国から導入せよ。総統ヒトラーの要請に応えてベルリンにゼロ戦を運ぶ任務は、孤高の魂故に日本海軍の厄介者とされた飛行機乗り二人に任された。

冒頭、現代の技術者の述懐から始まる構成は、読者を大戦前夜の物語へとスムースに導く。
発端となる一枚の写真、そして当時を知る欧州人との会話の中には、後半で明らかにされる意外な謎解きも仕組まれている。

トルコ共和国陸軍飛行場の星明かりの下に流れる安藤大佐のトランペット。海ゆかばの響きが身につまされる。独逸の操縦士が見せる歓迎の鍔迫り合いが、程良いアクセントとなって、物語を締めくくる。読後の余韻に痺れる傑作たる一冊である。

f0057955_1748272.jpgさて、書斎にあふれる本の対処を考えていた。

書棚の文庫本を後列に押し込み、その前に並べた本も既に満員御礼となっては、如何ともしがたい。

ついに、文庫本専用の組み立てスライド書棚をホームセンターで買ってきた。これでようやく本を作者毎に発行順に並べたり、カテゴリ毎に置き換えたりして、300冊以上が収まったことになる。やはり全ては収まりきれなかったものの、書斎の本棚には若干の余裕が生まれた。

近日中にもう一つのスライド書棚をこの上に組み立てれば、暫し安心であろうと一人ごちたのも束の間、今日起きてスライド棚に手をかければ、アレレレうまく動かない。このスライド棚の下にはベアリングのついた樹脂製のローラーが取り付けてあるのだが、これが嵌まり込んで前後に動く樹脂製のレールが、何と文庫本の重さで陥没変形しているではないか。

文庫本棚に文庫本を入れたら荷重で壊れましたでは、まるで設計がなっちょらん!
こうなったら、鉄工屋さんに頼んでこのレールを金属製に取り替えてやろう、と決心したのだ。
沢山作って、クレーム対処部品としてホームセンターに売り込んでやろうかしらん。