カテゴリ:趣味の読書( 170 )

f0057955_1358149.jpg原題はEifelheim マイクル・フリン著、島田洋一 訳、創元SF文庫

原題のアイフェルハイムはドイツの小さな村の名前。
昔は別の名前で呼ばれていたその村に、異星人の船が不時着した。

時は14世紀、キリスト教神学と世俗政治の混沌の中で、知識人であるデートリッヒ神父は、彼ら異星人(昆虫に近い姿で、バッタの友と呼ばれる)を救うべく、周囲の村民に領主に働きかける。

一方、現代のフィラデルフィアに住む統計歴史学者のトムは、中世にペストに襲われ、その後は復興せずに忽然と消えたドイツの小村に疑問を持ち、当時の書物から謎を解こうと奮闘していた。同棲する宇宙物理学者のシャロンは、新しい宇宙論のヒントを掴んで熱狂していたが、トムの発掘した古文書の中に、彼女らが最近になって新理論から導いたばかりの回路図を発見して愕然とする。

大作であり、中世の事象の描写がとんでもなく綿密で難解である。しかし、投げ出せずにジワリジワリと読み進めていくと、薄紙を剥ぐように結末に至る小説だ。中世の描写や宗教用語のみならず、ラテン語、ドイツ語、ロシア語などが入り乱れる(主人公の一人、トムがやたらと外国語を連発する)ので、これは訳者が大変だったのではないだろうか。

異星人は宇宙船を修理して故郷に戻れるのか。小村に襲いかかる黒死病、そして異星人達を襲う危機に対して、デートリッヒ神父と異星人達は必死の努力を続けるのだが、、、
静謐な最終章が物語を引き締めている。難解ながら傑作と言って良かろう。
f0057955_1428591.jpgまだあった忘れ物。
ワシントン封印工作 佐々木譲 文春文庫

日米が戦争に突入せんとする頃、日本の実業家の庶子故に米国に渡り医学を学ぶ幹夫は、母からの学費が途絶えて進退窮っていた。帰国を迫られ、大使館での雑用係として働き始める幹夫。

同じその頃、日本人を父に持ち米国人の母と共に帰国して就職先を探すミミは、政府高官から日本大使館にタイピストとしての仕事を与えられた。大使館内部に送り込まれたスパイとして。

両国が戦争に傾斜する中での青春群像。政府高官に愛されるミミは、やがて幹夫に心を開いて行く。
先日読み終えた大戦三部作の、一方その頃ワシントンでは、の一作。やはり傑作であった。

そのほかのメモ。
「プロ」が教える成功法則 新規事業がうまくいかない理由 坂本圭一 東洋経済新聞社
同僚が送ってくれた本で、字が大きく空白が多いのですぐ読めた。仰るところは御尤もな一冊。

アリスへの決別 ハヤカワ文庫、神は沈黙せず 角川文庫 共に 山本弘
MM9やアイの物語で味を占めて、作者の作品を遡って読んでみた。大層博学でオタク的、アイデアストーリーの小品を書くかと思えば、とんでもなくスケールの大きなものも書くのだな、この人。
f0057955_9535374.jpg年末年始に読んだ本を、読んだ順にメモしておく。

天冥王の標Ⅲ 小川一水 ハヤカワ文庫
シリーズ第三弾、前作より少し時間の進んだ太陽系内が舞台。体に充電して、酸素のない宇宙環境でも活動できるように肉体を改造した者たち「アンチ・オックス」、中でも海賊狩りを任務として彼ら独特の強襲砲艦を操るサー・アダムス・アウレーリアとその一統が活躍する。

はるか未来の植民星から第一作が始まり、第二作では過去の地球での災厄を語り、今作では散りばめられた謎が少しずつ正体を浮かび上がらせてくる。電気仕掛けの羊を送りこんだ眼に見えない存在と、これに対抗する勢力と、最後にはこの辺りの存在と人類が三つ巴になる予感。これからも楽しみにしておこう。

f0057955_9533010.jpg仮借なき明日 佐々木譲 集英社文庫
直木賞受賞で、過去の作品が改装・文庫化されていて有難い限り。

海外進出した工場の現地での不正を暴く企業戦士の物語。
彼は、都内のサラリーマンとしての本業の傍らで、ゲームソフトの副業収入で都心のマンションにクールな城を築く、知的でタフで故に企業の枠に収まりきれない男だ。

彼の能力を買う上司から特命を受け、外地に飛んだ彼を妨害と罠が待ち受ける。既得権を守ろうとする組織との攻防、彼がとる行動は、そして彼の運命は、、、いつもの通り、ページをめくる手が止まらなくなる、佐々木譲の快作である。

f0057955_1413454.jpg疾駆する夢 佐々木譲 小学館文庫

復員して焦土から身を起こし、いつか自動車を作る夢を追いながら、多門大作は「自動車修理・整備全般」の看板を掲げて本牧に多門自動車を創業した。

戦時の廃品からリヤカーを作り、自動二輪を作り、オート三輪の製造に乗り出した彼は、才覚を発揮して周囲の工場を吸収合併し、また仲間を募りながら、数多くの困難を乗り越え、多門自動車を育て上げていく。

文庫本の上巻下巻が共に700ページある長編だが、その長さを感じさせない。引退した彼を、その娘が語らせながら、時代ごとにエピソードが重ねられていく趣向である。堪能いたしました。

f0057955_9551076.jpgハーモニー 伊藤計劃 ハヤカワ文庫

近未来、人類はナノテク装置を体内に取り入れ病気を根絶した理想郷を築いていた。この装置はまたサーバーのIDとして機能し、構成員が個人情報を公表し他者を無制限に信頼する約束の上で成り立った高度な社会システムが、世界を覆っていた。

その世界に反逆する少女たちがいた。
彼女たちは死を選ぶが、主人公は生き残った。
時は流れ、彼女は図らずもシステムを維持する監察官の職務の中にいた。そして、ある事件が死んだ旧友の影に重なるとき、思いもしない事実が浮かび上がる。

SF近未来ギミック満載でよく描き込まれた、早世した著者の遺作である。人間とは、人の幸福とは何かを問いかける、切れば血の出るような物語だ。惜しい方を亡くしたものだと思う。
f0057955_2155157.jpg原題は、Singularity's Ling
ポール・マルコ著、金子 浩 訳、ハヤカワ文庫

超AIに接続した人類が融合した共同体。彼らは全員の肉体的な死とともに<進化>して、次なる次元に進んだものとされていた。
彼らが去った数十年後、荒廃した地球では、遺伝子操作で強化されたフェロモン交感と共感覚で結ばれた五人にして一つの人格<アポロ>が、外宇宙探査船の船長としての訓練に挑んでいた。

訓練中の事故の中に妨害と陰謀を感じた彼らは、否応なく共同体の謎に身を投じる事になる。地球を軌道エレベーターで結び、それらを大気圏外で結ぶリング。現在は沈黙するその管理者たる共同体AIに、活路を求めてアクセスした彼らを待つ運命は、そしてそもそも彼らが生み出された存在理由とは、

壮大・奇想な設定と、後半の謎解きのスピードアップに、ページをめくる手が止まらない。
楽しませていただきました。
f0057955_1015945.jpg佐々木 譲 著、集英社文庫
直木賞作家 佐々木譲の作品が、最近になって各社から文庫で復刊?改訂増刷?されていて、嬉しい限りだ。

この作品も1990年のものだそうだが、古さは感じない。いや、時代背景が当時であると言うだけで、物語の面白さは変わらないと言うべきか。

都内でふとしたことから知り合った男女。共に恋に落ちるのだが、しかし女が留学に旅立つ日、空港に男は姿を見せなかった。

10数年が過ぎて、運命に翻弄された男が組織から追われ身を隠した那覇のホテルには、その女がいた。
ホテル経営者の息子と結婚し、若くしてその夫を事故で亡くし未亡人となった専務として。
女は男の窮地を知り、援助の手をさし向ける。嵐の那覇、男に追手が迫る。男の逃亡はなるのか。

結末に向けてストーリーは加速していく。作者が演出した加速感は、まさに指数関数的だ。女が追手を男と見誤る数行に、男の引き摺ってきた過去が鮮烈に凝縮されている。堪能いたしました。
f0057955_2223370.jpg佐々木譲 著、角川文庫

新宿歌舞伎町の酒場の雇われマスター、郷田。
十数年を数えたこの店を畳むその日に、彼は中国系ベトナム流民のメイリンを匿う羽目になった。

ヤクザに、そして警察からも追われるワケありの彼女。土曜の夜の喧騒が深まるに連れて、その包囲網は狭まってくる。

強制送還に繋がる警察への投降を選ばず、郷田は信頼のおける店の客らと共に、彼女を脱出させるべく動き出すのだが、、、

悲運の中でも健気に人生を切り開いて生きる少女の気概、佐々木譲の小説の主人公達は、皆クレバーで凛々しく逞しい。
一昨日の東京駅の本屋で見つけて買ってきて、今日の横浜行き帰りで読了した。満足の一冊。
f0057955_1436332.jpg浅川芳裕 著、講談社+α新書
副題は、大嘘だらけの食料自給率

国家の農業の実力を評価する指標は「農業生産額」、メーカーである農家が作りだすマーケット規模であるべきだと言う。

我が国の年間農業生産額はおよそ8兆円で、これは、中国、アメリカ、インド、ブラジルに次いで5位。日本は既に構造改革が進み大幅な生産性の向上を成し遂げた農業大国である。数において大部分を占める国内の兼業農家は、言わば大規模家庭菜園層と理解すべきで、これら疑似農家を対象とした農業政策は如何なものか。

日本の農業は「高齢化が進む」「儲からない」「衰退産業」だから、補助金や戸別保障が必要だと言うのは「まやかし」で、何故そんなネガティブキャンペーンが繰り広げられているのかと言えば、それは民主党が票が欲しいから、農水省が仕事と天下り先が欲しいからである。

自給率向上などと言う概念も、この幻想を守るために考え出されたに過ぎない。しかも計算方法がカロリーベースだと穀物ばかりが評価され野菜・果物には不利。そもそも自給率の向上と食糧安全保障を同じ次元でとらえることがナンセンスである。

などなど、舌鋒鋭く、データも駆使して、説得力のある内容である。
票田や省益の云々は、いささか決めつけ過ぎの感があるが、一部確かにそのような例もあろう。
私は、むしろ日本農業の可能性を感じて嬉しく読み終えた。
1日だから朝礼があった。その後、同じ事務所内だが、所属部署が変わるので机の移動をした。
新しい執務場所となる机の下には、電源だ、電話線だ、LANケーブルだがごちゃごちゃと押し込まれていて、これは私の美意識が許さない。せっかくのOA対応二重床構造なのに、面倒がって露出配線のまま間に合わせを繰り返してきたから、このザマなのだ。

錯綜するLAN配線を整理したらハブが一ついらなくなった。絡み合う電話線を一度外して、余分な線はまとめて、これもせっかくあるOAデスクの配線隠しスペースに納め、必要な長さだけを出す。
電源もタコ足配線を直していくと、タップが二つも不要になった。大汗をかいて作業していたら、これだけで貴重な午前中を使ってしまったではないか!

午後からは新業務の社内営業で都内に出た。予想通り手応えは十分だ。これまで手が付けられていないと言う事は、手を付ければ収穫は間違いない。その準備を怠りなく行うのみである。
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おっ、そうだ。テルマエ・ロマエの第二巻が発売されているのだった、東京駅構内の本屋に飛び込んだが既に売り切れである。代わりに宇宙兄弟の第11巻を見つけて購入した。f0057955_951912.jpg

f0057955_95426.jpg千葉に戻って駅横の本屋に飛び込んだが、ここでもテルマエ2は置いてない。
第一巻に手をかけている見知らぬ男性と「二巻ないですねぇ、売り切れですかねぇ」などと会話して、代わりに天体戦士サンレッドの11巻を見つけて購入した。

やはりテルマエはネット注文しておくべきだったか。出遅れたので初版の購入は諦めざるを得ないようだ。
f0057955_11331550.jpg年刊日本SF傑作選、大森望・日下三蔵 編、創元SF文庫。
「虚構機関」「超弦領域」と続いた年間ベストの2009年版である。

第一回創元SF短編賞受賞作も含めて全19編の多彩なアンソロジーで、電車で移動中などに持ち歩くにちょうど良いと求めたのだが、この年は発表作が多かったそうで収録数も増えている。

解説等も入れて629ページは、文庫本の厚さとしては限界を越えていて、実は持ち運びに難渋した。
もう少し作品を絞ってもいいのではないでしょうかね。来年も楽しみにしています。
f0057955_23164187.jpg山本 弘 著、角川文庫

人類が衰退してマシンが支配する未来。
戦闘能力にたけた美少女アンドロイドに軽くあしらわれて、囚われる羽目になった主人公は、頑なにマシンを憎むのだが、彼女が聞かせる物語は彼の認識をいつしか変えていく。
人類を今の境遇に追いやった原因は何だったのか。

萌え系?ロボットテーマの結構ハードSF、劇中劇のエピソード群もなかなか良くできていて、これは傑作と言ってしまおう。
ここに至った我が国のSF界の充実を喜びたい。
映画化しないかな、原作に忠実にさ。全世界のクールジャパン信奉者にとって、バイブルになりうると思うよ。アニメでもいいけど。

読んでいなかったこの作者の出世作を書店で買ってきて、これも楽しみにしている。