5/27 痴呆老人は何を見ているか

f0057955_2053727.jpg大井 玄 著、新潮新書。
サングラハ会報への連載記事を再構成した、貴重な医哲学書だ。
痴呆老人が住み暮らす精神世界を、著者の経験に裏打ちされて客観的に、しかし愛ある分析の上で読者に提示する。

なるほど、こうなのだ。
夫々の精神が認識する世界は、健常人でさえ多様である。
痴呆老人が自らの知力の衰えに応じて構築し得た世界観を、何も看護側が潔癖さを発揮して否定し、修正すべきことではない。

抗癌剤の副作用で奇矯な言動をする爺さまを前にして、大いに戸惑った20年前の自分を思い出した。修行が足りなかったことだ。

現代社会の解析と生存戦略の流れから、若者のひきこもりについて触れている。
日本固有の社会現象であり、豊かな社会故の発現であるのは確かであろう。途上国では生存の為に否応なく社会参加せざるを得ぬからである。しかし、その根源を鮮やかに説明されて、これは唯一無二の考察である。
周囲他人との協調を美徳として求められつつ「よい子」として成長し、自我の確立が伴わぬうちに学校や社会教育の中で突きつけられる競争原理に戸惑う魂。助言すべき大人と社会システムが陥る自立への勘違いと、結果としての責任放棄、或いは方法論の未熟である。

自分の子育てはどうだったか。
失敗したとは思わぬが、この辺りの陥穽を理解している、いないで、大きく家庭教育の形は変わってこよう。正にこのような的を得た経験則が求められるのである。
老人介護に対するよりは、むしろこれから子育てをする若い夫婦にこそ読んでもらいたい、人生の叡智の好著である。
by yokuya2006 | 2008-05-27 20:51 | 趣味の読書 | Comments(0)