1/19 死んだ後のお楽しみ =ショートストーリー=

いささか不謹慎ですが、私のショートストーリー第一作。
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父が死んだ。
死亡診断書には肺炎と書かれているが、90まで生きて、老衰のような死に方だったから、まあ大往生の部類なのだろう。
悲しくないと言ったら嘘になるが、集まった身内からは悲痛な感情が湧いて出る気配は無かった。

会社員時代は、よく働いて私達を育ててくれた。
仕事人間だったが、趣味も多彩で、我が父ながら親として尊敬できなくもない。本人も機会ある毎に「楽しい人生だ」と言っていた事を思い出す。

定年後は環境保護の活動に熱心な父だった。
NPOを組織して、生ごみの資源化に取り組み、有機物を無為に燃やす事を嫌った。
「人間は生態系の頂点にいる生き物なのだから、その責任がある。」父の決まり文句だった。
魚が好きで、特にあの事件以後は、脂の乗った底魚を食べるのを自らに課していた。

火葬場で、変わり果てた父の骨を集めて骨壷に入れた。
市の職員がやってきて、形ばかりのお悔やみの言葉を云い、おもむろに検出装置を骨壷に向けて測定を始めた。親族は期待を込めて、その結果を待つ。

「はい、測定完了しました。」
「重金属800ミリグラム、放射性物質800ベクレル、いやあお父様は努力されましたね。」職員はそう言うと、測定結果に応じた見舞金のクレジットをきって私に差し出した。
想像していたより、かなり多い金額だった。これで新しい家を建てる事が出来る。
私は心の中で父に感謝した。

人間は食物連鎖の頂点にいる。財産は墓まで持っていけないが、この世の汚染物質を生体濃縮して墓まで持って行くのは人間の義務だ、と云うのが父の口癖だった。

生体濃縮機としての人体。広く拡散してしまった汚染物質を回収することなど出来ない。生物濃縮は自然が用意した除染機構なのだ。
最近の墓所は鉛の板で遮蔽されている。焼き場は、煙に乗って汚染物質が撒き散らかされないように、フィルターが完備している。人間が生物濃縮した汚染物質が、やがて墓場に集まり、極めて効率的に環境を除染する方法が確立したのは、あの事件から数年後だったと学校で習ったものだ。

私もこの歳になった。子供も育ち、もう子作りする必要はない、私の体の中で、細胞分裂が旺盛な組織に気兼ねせずに、重金属や放射性物質に汚染された食物を食べる事が出来ている。
さあ、私は子供たちにどれだけのクレジットを残せるのだろうか。
私も父を見習い、精一杯に環境汚染物質を体に取り込んで、この世を去りたいものだ。
未来の私達の子孫のために、そして政府の発行するクレジットによって、私の子供たちに遺産を相続させるために、、、
by yokuya2006 | 2012-01-19 21:53 | 日常の雑感、覚書 | Comments(8)
Commented by haru at 2012-01-20 11:48 x
わぉー!! スッゴ~イです。さすがにyokuyaさんですね。
目の付けどころがナイス。(*^-^)
子どもが独立したら、もう私達は20年先、30年先の発病なんて
どうでもいいから、汚染されたのは自分たちが食べればいいよね!
な~んて食卓を囲み、そんな話をすることが時々あります。(笑)
まさにそんな社会派ブラックストーリー。
なんといっても、政府がクレジットを発行してくれるのがいい!

第一作から、こんな高度なショートストーリー。
楽しませてもらいました。 (*^ー゚)bグッジョブ!!です。
Commented by urasimaru at 2012-01-20 18:58
おお。第二作も楽しみにしてもよろしいですか?^^
Commented by ryuji_s1 at 2012-01-20 22:28 x
素敵な話題の提供ですね
死亡ごののクレジットとは考えましたね
Commented by 角之倉 隆 at 2012-01-21 10:45 x
目の付けどころが違いますね、私は普段のお話が好きです。
申し上げ方が舌足らずでした。普段のお話のほうが暗闇や救いが見えます。2作め楽しみです。
Commented by rollingwest at 2012-01-21 12:48
温室効果ガスの排出権取り引きみたいですね。クリーン開発メカニズムのような制度もあるのでしょうか?(笑)
Commented by yokuya2006 at 2012-01-21 20:30
コメントを下さった皆様、私の座興にお付き合いいただき感謝します。
今読み直してみると、暗いですね。そしてストレート過ぎます。カミサンと酒を飲みながらの話が発展して、酒の勢いで書きました。反省しています。
Commented by urasimaru at 2012-01-22 19:32
なんか溜飲が下がるっていうか、現実のもやもやを昇華してもらった気がします。
Commented by yokuya2006 at 2012-01-22 20:56
urasimaruさん、重ねゞ恐れ入ります。