1/4 正月は佐々木譲で過ぎていくのだ

f0057955_1072174.jpg夜にその名を呼べば、佐々木譲、ハヤカワ文庫
ベルリンにまだ東西を分ける壁があった頃、在独の商社マン神埼は、不祥事発覚を恐れた親会社から不正輸出の罪と同僚殺害の汚名を着せられ、口封じに命まで狙われる。

辛くも東独に脱出した彼から、5年後に手紙が日本に届く。母には「日時と場所」を示すのみだが、殺害された同僚の家族と雑誌記者には「真相をお話しします」と、そして彼を陥れた会社の上司には「取引したい」と書き添えられた手紙だった。

これを察知した警視庁公安部は、当日入港するソ連貨物船で彼が帰国するものとして、当時の捜査官を派遣する。それぞれの思惑で小樽港に集まった彼らの前に、果たして神埼は現れるのか。手に汗握る展開、最後に一気に明かされる謎解き、壮絶な復讐劇なのだがしっとりとした手触りの傑作である。

牙のある時間、佐々木譲、ハルキ文庫
北海道のある町に転居してきた夫婦、絵描きの夫、そして妻は素人芝居や陶芸が生きがいの女だった。田舎町の人々からは浮いてしまう彼らだが、やがて貴族趣味の隣人、葡萄園の壮年のオーナーとその若く美しい婦人と懇意になり、付き合いを深めてゆくことになる。やがて絵描きの夫は妄想に怯え変調を来していくのだが、、、

何と!ホラーである。伏線として語られる狼乃至は人狼に絡めた葡萄園オーナーの過去。物語は妻と夫の一人称で交互に進み、読者には同じ時空を別の眼で追体験させる趣向だ。真犯人は誰なのか、絵描きの精神は損なわれてはいないのか、吸血鬼とその花嫁達の伝説を思わせるジンワリと怖い話。佐々木譲、こんな小説も書くのだな。傑作である。
by yokuya2006 | 2010-01-04 11:51 | 趣味の読書 | Comments(0)